りんごの輸出をしてみて分かった事/思った事


 
今回、フィリピンにりんごを輸出してみました。
 
私の会社は、日本の農家と東南アジアの現地で高品質な農業生産を立ち上げる事業をメインとしており、
フィリピンにも農場を出したいと以前から考えていました。
(実際に次の冬には開始したい!仲間募集中です)
 
また、長野に引っ越して農業を始めて4年目になりますが、
りんご農家との繋がりもでき、リンゴの個人向け販売などを行う中で、
りんごは商品としては、とても魅力があると思っていました。
 
一方で、日本国内の消費は高齢化と共にドンドン減って行きそうな雰囲気
「木」で作る、せっかくのリンゴ畑のインフラどうなっちゃうの!?
と思っていました。
 
そんななか、地元の銀行さんが、フィリピン大手財閥(小売系)と連携するという話を聞き、紹介をお願いして動いてみた、という経緯です。
 
やってみて思ったのは、
 
1. 輸出入って案外敷居低い。「大手商社」とかでなくとも、小規模ベンチャーでも出来る時代になった
 
2. 超高級野菜/果物はニッチビジネスに過ぎず、大規模で競争力ある価格の農業直結じゃないと面白くない。
つまり農業生産段階でも「輸出用大量効率生産」が必要で、今あるものを売るっていう話ではない
 
3. 高品質で競争力ある価格の日本野菜/果物の「企業ブランド」を作る必要(県や品種ではなく) Made by Japanese現地生産も含めて
 
の三つです。
それぞれ補足します


1、 輸出入って案外敷居低い。「大手商社」とかでなくとも、小規模ベンチャーでも出来る時代になった

これが、振り返ってまず実感として感じた事です。
 
実は、元々インドネシアとの取引がいろいろある中で、ある輸入をしようと去年春動いていました。 
最初は、CIFFOBだL/Cだフォワーダーだバンニングだ馴れない言葉が出て来て、素人だと大変かなと思ったのですが、やってみると案外単純な話でした。 
もちろん、いろいろとややこしい事もありますが、輸出入手続き自体は、やってみればやれるなというのが感想です。
 
大切なのは、売り先の海外の出口 或は 輸入であれば海外の仕入れ元とちゃんとコミュニケーションが取れるか、であり、LCCもあり、Skypeなんかもある現在、そんなに高くない販管費で輸出入の段取りができるもんだなと思いました。
 
農家は、ある程度の規模であれば、年間何百トンとかの物量を動かしています。 
コンテナ20フィートであれば、ものにもよりますが10トン足らずの積載になるので、農家の庭先でコンテナに入れて、それをそのまま輸出というのは、これから増えるんだろうなと思いました。
農産物はキロ当りが安いものなので、いろいろ手をかけずに効率的にパッケージング、物流をしないとダメです。
で、それが今日本ではあんまりされていませんが、農業法人の感覚からすると「1コンテナ10トンね、はい出します」という感じで割と自然とできると思います。 
 
まあ、海外の競争力のある産地では当たり前に行われている事なのでしょうけれど。

 
2、 超高級野菜/果物はニッチビジネスに過ぎず、大規模で競争力ある価格の農業直結じゃないと面白くない。
つまり農業生産段階でも「輸出用大量効率生産」が必要で、今あるものを売るっていう話ではない

これまで、「輸出」というと、アラブにスイカがめちゃくちゃ高く売れたとか、「日本の農産物は非常に高品質で評判も高いから、通常品の何倍も高く売れる」という話が出るシーンが多かったと思います。 
実際、フィリピンなど東南アジアのりんごの棚を見ても、通常のりんごが一個100円未満な所が、日本産は一個数百円で売られていたりします。
 
まあ、これはこれでいい事なのですが、ビジネスとして成り立っているのかな?と心配になったりします。
 
高くて、棚回転が悪いということは、原価率も低い(すなわち農家への還元率が低い)ということになります。
量も出ないし、還元率も悪いとなれば、日本の農業へのインパクトは非常に限定的です。
 
私が今回りんごの輸出もやってみようと思ったのは、日本国内のりんご農業が、今後輸出もがんばらないと厳しいと考えたからで、量が出ないと意味がありません。
 
そして、「量を出す」という前提でビジネスを組むといろいろ出来る事があって、実はコストはある程度競争力がある、りんごで言えば中国産やアメリカ産と戦えるレベルに設定できていきます。
 
いろんな鶏と卵みたいな事があるのです。
 
ということで、本気で他の農産国と「同じ土俵で」戦って行く時に必要な事。
それはいくつかあるのですが、「生産段階でコスト競争力をつける」という事も必要です。 
日本の果物野菜は、輸出を考えると明らかに「高コスト、オーバースペック」です。
だから、実際農産物輸出市場では、海外で全く競争力、存在感がありません。
(日本米ならカルフォルニアが、ふじりんごなら中国産が、梨なら韓国産が強いというように)
 
なので、ざっくり言うと、品質8がけ、コスト半分 ぐらいに生産のやり方を変えて、輸出用の作り方をするという事が必要です。
 
今日本向けに作っているものを売る、というのでは難しいです。
余った場合に(値引くので)出す、というのも、そんなワガママは通用しません。売り先に安定供給しなければ売れません。
 
なので、輸出用は「狙って」作る必要を感じます。
このへんは、日本のりんご農家、米農家等と組んで具体的に進めて行こうと思っています。
 
 
3、 高品質で競争力ある価格の日本野菜/果物の「企業ブランド」を作る必要(県や品種ではなく)Made by Japanese現地生産も含めて

今回、りんごを売るにあたって、最も意識したのは「このりんごが日本産です!」というメッセージが消費者に伝わる事です。
なので、日本産という事が分かるポップを作り、シールをりんごに貼り、ということをやりきりました。

一方、フィリピンの野菜/果物の売り場ではばをきかせているのが、DOLEです。 
いろいろなものにDOLEのシールが貼ってあります。
バナナ、マンゴーなどのトロピカルフルーツはもちろん、現地産のブロッコリー、カリフラワーなどの野菜、韓国産の梨、いちごなどの輸入果物等等。 
Doleは「Made by Sunshine」を副題にしているので、伊藤忠が親会社と言っても、あくまで「トロピカル」な雰囲気のブランドかと思います。デルモンテも同様。 サンキストも、柑橘(カリフォルニア中心)なイメージですね。
 
ここで、必要なのは、「日本(人農家)の高品質、安全」を連想させる、ブランドです。トヨタユニクロのような。 
弱小ベンチャーにはなかなか身に余りますが、これを作って行く必要があります(求ム、仲間!)。
 
そして、それは輸出だけでは作れません。 Made by Japaneseの現地生産との合わせ技が必ず必要になります。 今回我々がフィリピン、インドネシアの小売りと商売が出来るのも、made by Japanese in フィリピン/インドネシアへの期待があるからという部分が大きいです。

4月5月になると、最近ではニュージーランド産のりんごもよく日本のスーパーで見かけます。
南半球なので採れたてな訳です。
そしてこれが結構おいしい。
 
このニュージーランドのりんご会社が大きいりんご畑を韓国で仕込み中という話もあります。
もうすぐ韓国産のおいしいりんごが、日本のりんごの収穫期に入ってくる事でしょう。
そして、通年、この企業ブランドで、おいしくて安くて新鮮なりんごとして売られる事でしょう。
こういうのとの競争、が現実なのです。
 
日本の農業は、
 
品質は競争力ある。
 
コスト競争力はない。
 
品質に競争力があるのはとてつもないアドバンテージです。
 
なので、ちゃんと、コスト競争力が無い事と向き合って、コスト競争力をつけて行くことが大切です。 
一部は現地生産で、一部は国内の生産性の飛躍的向上によって。
 
そして、頑張ればそれが出来る。
そんな思いを新たにしたりんご輸出でした。
 
最後になりますが、今回の輸出は、地銀さん、卸さん、輸出入業者さん、そのような方々にバックアップ頂いてこそ成り立ったことでした。 皆さんありがとうございました。