新規事業担当者向け講座1:         積み上がり型ビジネス(サブスクなど)の事業価値評価は、顧客生涯価値(”CLV” life time value)をベースにまず考えよう

【導入/背景】

一般的な事業会社にて、新事業を検討する際、これまで通り何年間かの収支計画を立て、NPVなり 投資回収期間なり IRRであったりというような、慣れ親しんだ収支計画をベースに、計画側も、審査側も見る事がまだまだ多い気がします。

一方で、メーカーはサービス化、サービス業もサブスク化等が重要なテーマになって来る中で、そのような「複数年収支計画系」は、もちろん必要(規模感を見たりとか)ではあるのですが、もっとまずやるべき視点が有ると思います。

 

これから書く“CLV”は、いわゆるITサービス(オンラインメディアでも、スマホゲームでも、マッチングアプリでも、B向けの例えば名刺アプリとかでも何でも)では当たり前に「最重要」な視点で、有効なので、投資側のVCはおろか、ベンチャーへ融資する銀行もこの視点で見ていると思います。

いわゆる日本の大企業には、「これまでの見方と違う」という事もあり、定着していないどころか、あまり認知/理解もされていない事が多いように見受けられます。

是非、多くの新規事業担当者、及び審査する経営企画部/経理部が当たり前に早く使いこなす事の一助になればと思いブログに書きました。

 

【LTVの基本的な考え方/使い方】

顧客生涯価値(Customer lifetime value)とは、簡単に言えば、顧客一人当たりのNPVです。

算出式の基本は、

A: 単位期間(月か年か)あたりの顧客一人が落としてくれる粗利

B: 顧客の継続利用期間の期待値

C: 顧客を獲得するのにかかるワンオフのコスト

という事で、 A * B >> Cかどうか、というのが基本的な視点になります。


(A * B ) - Cが、単位顧客LTVであり(細かく言うと時間軸で割引率かけると尚良し)、こいつに顧客数をかけてやれば、「それぞれのときの事業価値(PLではなく)」となります。

この考え方の有用性は、「顧客が増えれば増える程獲得コストが嵩むが、中期で見れば魅力的である」事業を正しく、“リアルタイムで”評価出来る事です。積み上がり型のビジネスは、一般に最初に、顧客獲得にコストがかかり、それを顧客が離脱するまでに回収し、収益を出す という構造をしています。一方で、顧客獲得コスト、顧客の滞在期間は、状況によってリアルタイムで変化し、且つ事業運営上の最重要KPIでもあります。

新規事業は、機動性が重要で、challenge & learn の姿勢/ pivotしながら進めるという事が大切ですが、それが闇雲にされているのではなく、この指標を下に語られる事で、運営(推進)側/管理側が有意義な会話が(2年後売上利益は上がるのか?とかやっているよりずっと)できるようになります。

 

PDCA(改善/品質管理のコンセプト)というより、OODAループ(判断の為の基本コンセプト)の思想の視点と言えるのではないでしょうか

 

【実際に使う際のポイント】

  • 「顧客属性をいくつか設定する事で精度が飛躍的に上がる」

    顧客のタイプによって、上記A,B,Cのパラメータが大きく変わる事はよくある、というかだいたいの場合そうです。
    あまり細かいメッシュにすると訳分からなくなりますが、最初から3つとか(うちどこかは狙わないとかでも良し)以上設定する事をお勧めします。その方が顧客像がリアルに描けて、事業推進自体の質も上がるでしょう
    これは、CLVに限らず顧客セグメント設定するとき共通ですが、単なるデモグラフィー(年齢性別など)で分けるよりは、顧客の動き方や価値感のタイプによって分ける事が、精度を上げます

  • 「理解してくれない人に説明するときのコツ」

    まず"NPV"自体の概念や、Marketcapは基本EVと同じになるはずだ というような基本的な事が分かっていない人には、将来利益の現在価値という概念から説明しましょう
    シニアで、なんとなく新しいモノに抵抗する人には、「富山の薬売りビジネス」の例えなどから入ると、耳を傾け易いかもしれません。
    世の中のサブスク(アマゾンプライムなりNexflixなり)はもちろん、携帯電話キャリア事業や、プリンター事業(インクで儲ける)など、多くのビジネスが、この考え方を基軸として運営されている事を、共通認識として持つ事が、議論を始める前に必要でしょう

  • 「未来の事業のシミュレーション関して、集中すべきポイント」

    先ほどの、A,B,Cは、それぞれ関係し合っています。
    粗利が高いお客さんこそ、獲得にお金がかかったり。獲得が簡単な顧客程、継続率が悪かったり。モデルを動的に組んで、シナリオを検討すべきです。
    また、A顧客ごとの単位期間粗利ですが、粗利は「収入−経費」ですが、経費はサービス品質に直結します。サービス品質の高低によって、継続率も変わりますし、そもそもチャージ出来る収入=月額(年額)単価も変わるでしょう。このあたりがシミュレーションのポイントです。
    これらの数字についての確からしさについての議論が出来れば、健全な議論が出来ている状態だと思います

  • 「併せて押さえておきたい視点」

    この考え方に親和性のある、併せて理解しておきたい視点/キーワードが有るので、最後に書いておきます。

    まず、「顧客離脱前触れ把握&挽回戦略」という視点です。

    書いて来た通り、「継続利用期間(期待値)」は、このCLV算出上の肝であり、実際の事業運営上も最重要KPIです。
    この数字をなるべく上げる為に経営上重要なのが、「離脱しそうなお客様を前触れで認識し、挽回策を打てるか」というタイプの仕事です
    例えば、「2ヶ月か利用していないと、次の月離脱する可能性が40%(顧客全体では数%なのに)」というような事が分かれば、そのような顧客に、特別な特典を付与してみる、など打ち手が見えて来るはずです

    次に、「フリーミアム戦略」です
    簡単にだけ紹介すると、「無料で利用頂き、とにかく利用者を増やす。そこから、一部のお客様だけに“特典”を提供し、その特典に課金する」という考え方です。アマゾンはじめ、cookpad, tabelog などみんなやってますよね。 顧客増分コスト(顧客が増えるのに従って追加的にかかる運営費)がマージナルな場合は、この戦略が基本になると思います。
    この戦略をとる場合は、顧客がフリーと有料の二段階となり、「移行率」の想定が重要論点となります。

 

以上、結構浸透していると思った事が、案外大企業に浸透していないので書いてみました。 当たり前の事じゃんという方、時間を使わせすいません、、、