新事業担当者向け講座2 新規事業を考える際の既存事業/コアの活用可能性評価のポイント/pit fall
【導入/背景】
新規事業の成功の確率や、「なぜ我が社がやるのか?」の合理性の根拠として、「自社の強みが活かせるかどうか?」が通常問われる。
これが、当たり前のように見えて、なにをもって本当に「活かせ」そうなのか、どう蓋然性を検討するのかは、かなり奥深い。
そして、下手をすると、ものは言いようだったりするので、割と「表面的な理由付けが出来ちゃう」ためGoとなったはいいものの、実際に事業開発するに当たっては、強みが活かせない事は多い。
そういう事業開発は、無理くり「強みを活かす」幻想に囚われて、顧客目線/現場感からは離れた「社内向け営業」的な活動に堕落しかねないポイントでもある。そうなったら担当者は最悪である。
そのような不幸を避ける為にも、もちろん新規事業開発の成功確率を上げる為にも、「自社の強みは活かせるのか?」は、深く深く、自社、対象市場機会を考察すべき事柄である
【基本的、一般的な考え方のおさらい】
まず、一般論として通説を二つ程おさらいしたい。
一つは、非常に古典的な、コンサル会社だと最初に叩き込まれる概念である、”business definition”(凄く一般的な名称。直訳は「事業の定義」だが、後述のコンセプトを意味する)。
もう一つは、「コアの定義」要は、自社の強みの定義をまずしっかりして、それを何に活かせるかという手順をちゃんと踏もう。という考え方。
“Business definition”
この概念は、コンサル会社で最初に習う(会社によるかも)が、今この一般的な言葉で検索しても、これから説明する概念のページが出て来ない。
非常に簡単なコンセプトであるが、極めて有用だと僕は考えていて、この視点でうんうん唸りながら考えている事が多かった。
基本的には、「二つのビジネスの近さを定性的に評価する」事を目的としており、本業に対して、複数の「新規事業候補」が、どのぐらい近いか遠いか議論するのに、最初に活用すべき視点である。
2x2マトリックスで、縦横どっちでもいいと思うが、「顧客の重複度」横軸に、「コストシナジー」をとる。
本業と、お客さんがどれだけ一緒か、本業があるから、ゼロからやるのに比べてかからなくて済むコストの比率は、その事業にかかるコストに対して何割ぐらいか。
これは、新規事業戦略で攻めの候補優先順位付けにも使えるが、リストラ時に既存ポートフォリオの中で切り出すべきは何かを検討するのにも同様に使える。
相対的なマッピングになるので、定性的ではある(何をもって“大きい”か“小さい”かを、相対的に決めるしか無い)のではあるが、“政治的”ではなく、“定性的”な議論が出来易い。
もうちょっと一般的すぎない良い名前があれば良いのだが、、、
もう一つは、「コアの定義」
先ほどの”business definition”では、「顧客の重複度」「コストシナジー」と、かなり限定的に(その方が議論がぶれないから)本業とのシナジーを計測するツールとなっています。
ただ、世の中のスピードが上がり、機動的に動けばいろいろ出来るチャンスがある中で、シナジーの出発点がその二つだけではあまりに限定的すぎるだろう、というのが一つの背景です。
また、事業を複数抱えるような会社の場合、「うちの突き詰めた強みの源泉ってなんだっけ?」というような状況もあります。
もっとどぎつい事を言えば、一昔前は明確な強みがあったけど、今明確に誇れる強みなんて、社外を納得させられるようなレベルではなかなか見当たらないというステージの会社も多いでしょう。
そんな時に有用なのが、「自社のコア」を改めて見つめ直し、コンセンサスを形成して、「この強みの上に立脚しよう」というアプローチです。
では、「コア」の再認識というのは具体的にどういう事か。
Nikeの例が多くの人に分かり易いと思います。
バスケットシューズを作っていたナイキ(だいぶ長い時間軸の話になります。80年代ぐらい)。なぜ、ゴルフクラブまで作れたのでしょうか?
いろんな事はありましょうが、一言でいえば、「スーパーヒーローをマーケティングに活用する」という“ケイパビリティー”こそが、ナイキのコアと定義で来たからです。
マイケルジョーダンにバスケのマーケティングを破格のオファーでしてもらって収益を納める事に成功したナイキは、バスケだけでなく、ゴルフ、テニス、サッカーと、「この道の通り方知っている」とばかり、各スポーツのスーパースターとの連動を成功させる事で、靴だけじゃない、バスケだけじゃない、ナイキ帝国を築いたのだと思います。2020年に1990年代の例ですませんw
“ケイパビリティー”は、なかなか自社では気付きにくかったりする、他社に対する優位性ですが、これをちゃんと発見、コアとして社内で定義づけてあげる事で、チャレンジの方向性、その際頼る社内資産が明確化するという効果があります
【具体運用上のポイント】
上記のような、本業との距離感、自社の強みの探索をする上での実務的なポイント/失敗し易い所を書きます
- 「定性的」のdiscipline(強弁か論理的かのライン)死守
政治忖度を廃し、定性(≒この数字ならこのランクとちゃんと定義)、どこまでが「定性的であるか」の倫理を守る事です。
business definitionをマップするときも、各担当者他は、自分の関係する事業が、本業から近いと強弁するでしょう。
その時に、「すいません、この一目盛りは、顧客重複率10%でやってます」と、曖昧さを廃し、disciplineを守る事が生命線です。政治闘争でなくクールな議論をする為には - 現在だけでなく、「未来的に定義する」事が出来るし、すべき
新規事業創出は簡単ではありません。意欲が有り、一人の頭抜けた担当者が突破するというような事もあります。
また、新規事業は「尖っている」(多くの人が失敗するだろうと思うのを突破する)必要が「基本的に」あります。
その場合、上記視点を「今日的に」見ただけでは、煮詰まってしまう事も多いでしょう。
とても大切なのは、「未来的に」今はしっかり強みとは言えないが、会社のDNAや世の中の流れを踏まえて、5年後とかの将来的に、「うちの会社の強みはこれだ!」と言えそうなもの。
ちょっとずらして(安直なみんなが頷くことではなく)定義する所が味噌だったりします。
例えば、僕が関わったワタミは、「居酒屋」の会社でしたが、安直に「フードビジネスのケイパビリティーがある会社」ではなく、「お客様に真心からサービスを提供し、お客様を喜ばせる事が私の喜び」という集団である、という定義の下、介護、弁当宅配と事業ポートフォリオを進化させました。
この辺の「ずらし」「未来志向」がミソなんです
- ステップで考える。PoA(Point of arrival)と、「最初の一歩」の並行検討
新規事業を最初から、大きなスケールで考えるのは無理がある事が多いでしょう。
なので、長期(5−20年とか)で、「どこへ行きたいのか」をじっくり考え、「併せて」まずなにをやるかを考える。
この「併せて」というのがミソで、遠い将来だけだと絵空事になりがちだし、目先の事だけだと場当たり的になりがちです。
遠い将来の夢と、目先で来そうな事の同時シミュレーション/妄想が、大切です。
目先やる事の期待できる規模は限定的でも、将来それが、「束」としてスケールしていけそうな事をやる。
いずれにせよ、「イメージ出来ている事以上の現実は無い」と肝に命じ、「本当にワクワクする将来の夢」に繋がる、第一歩としての、「まず今年これやるぞ」と定義する事が大切でしょう
【終わりに】
新規事業創出は、本当にワクワクするので楽しいし、いろんなドラマが生まれます。未知の海に漕ぎ出すのは大変だし、社内で後ろから撃たれたりしないように、社内コミュニケーションも欠かせないでしょう。
でも、未来を作る仕事、これ以上に面白い事は無いので、勇気を持って挑み、考えを尽くして行きましょう!