渡邉美樹とはこんな人2 〜 企業買収時に見る 渡邉の「軸」

渡邉さんの、判断軸が、もっともわかりやすく表れたのがM&Aの時だったので、その話を書きます。

私は入社して、すぐ農業という訳ではなく、経営企画的なことをしばらくしていました。

そのとき、既にワタミが買収させて頂いた「ワタミタクショク」の案件が来ました。
タクショクとは、高齢者、特に独居高齢者にお弁当を宅配する事業です。
九州、特に坂の多い長崎発のビジネスで、創業者の方が全国展開をワタミに託したいという案件でした。

私は前職で、M&A関係の仕事をやることが多かったので、「M&A案件検討、普通はこうする」というのをわかっているつもりです。

基本的には、金銭的な軸で、
「この企業はこのままだとどんなキャッシュフローになる」
「買った場合シナジーがどのぐらいでるから、この会社のうちにとっての価値はいくらぐらい(=支払い可能最大額)」
「一方で、想定される競合買収者、あるいは販売側の論理だと、このぐらいに値付けするであろう(=買うために必要と想定される額)」
などを、こまめにシュミレーションして、適正価格をはじくのです。

この案件が来て、「前向きに一次検討しろ」と渡邉から指示をもらったとき、私は早速、上のような数字をはじいて、翌日持っていきました。

そうしたら、渡邉から、

「そんなことはどうでもいいんだ。この事業が、本当に”ワクワクする”、素晴らしい事業なのか。我々の理念に照らしてやるべき事業なのか、それが一番重要で、金額なんて大した問題じゃないからどうでもいいんだ」

とダメ出しを頂きました。

頭をガーンと叩かれたような、目からウロコな出来事でした。

曰く、
「本当にワクワクするような素晴らしい事業なら、やりたいんだから、絶対にやるんだ。そして、そんなワクワクする仕事は、ハンパなく上手くいく。目先の買収価格が多少高い低いとかと違う次元で発展する」

「一人や二人で住んでいる、おじいちゃん、おばあちゃんが、一日の中で唯一人と接するのが、そのお弁当が着くときだったりするから、これはお弁当を運ぶ事業ではなくまごころを運ぶ事業。しかも、運び手が60代とか70代で、引退した元気な人にたくさんの素晴らしい仕事を提供できる事業。お客様から、従業員から、ありがとうが集まるワタミらしい事業だと思うが、本当にそうか?大丈夫か?という事がお前に指示した仕事だ」

参りましたし、そういうレベルの話に巻き込んでもらって、とても嬉しい、誇らしい気持ちになりました。

結局、この事業は、創業した方が心地よい価格で、特に価格交渉あまりなく買収させて頂き、その後、全国展開が今急ピッチに進んでおります。
たくさんの「ありがとう」がお客様、従業員から集まっている事業になっています。財務的にも、成功でした。

経営の「本質」というのは、お客様、従業員からのありがとうを集める環境を整える事。
ここにしかないと、体感させて頂いた出来事でした。